5月例会講演が5月26日(木)に恒例の日本記者クラブ会議室で行われた。
今回の講師は会員の大井 篤氏、同氏は1973年通産省(現経済産業省)入省され、各方面でご活躍の後三井物産に転じられ、現在は公益法人日本デザイン振興会理事長に就かれている。
本日の演題は「デザインの変遷と潮流」。総合的なデザインプロモーションを担う日本デザイン振興会の主たる事業であるグッドデザイン賞事業についての話を伺いながら、今の社会においてデザインに何が求められているのかを具体的な受賞事例について解説を受けた。このグッドデザイン賞事業は1957年の特許庁のグッドデザイン商品選定事業を起源とし、戦後日本の高度成長を見守りつつ現在に至り、今では多くの人に訴えかける力を持ち、認知されている、今年で60周年を迎える歴史のある一大事業に位置付けられている。
これまではデザインというと、単に斬新な色や形で表現され一般大衆に受け入れられ易い商品の形態や商標を連想していた。本日の講演を聴くとデザイン、そしてグッドデザイン賞というのはもっと奥深く、ハードからソフトに至る多分野を対象にした幅広い領域において、外見の形状である色や形でなく、そのバックグランドストリーを探り、デザインの背景となっている、所謂哲学を論じて受賞作品を選定しているとの事である。
受賞作品の説明を受けた締めくくりで、デザインは産業の活力を高め、人々の暮らしを魅力あるものにするだけでなく、社会の多くの人が創造的に、希望をもって生きていける社会を作り上げていくうえでも、大きな役割が期待されていると聴くと、妙に納得してしまう。
日本デザイン振興会はこの他にも国際連携事業、デザインハブ事業、ビジネスサポート事業などデザインに関わる事業を推進し、デザイナーの力を使って地域おこし、震災被災地復興をも支援している。
デザインの歴史は19世紀の産業革命に遡ることができ、大量生産時代における品質の確保を目的にデザインの概念がスタートし、その後需要を喚起する手段としてインダストリアルデザインが登場、現在においては、社会のニーズの変化に応じてデザインの領域は拡大の一途を辿っており、関心はますます高まっている。
デザインに関する近年の傾向として米国のティム・ブラウンの提唱するデザイン思考が紹介された。イノベーションを生み出すにはデザイン思考が必要である。イノベーションは人間の動態や欲求、選好などに因数分解することが出来、ユーザーの動機や行動をベースに物事を組み立てるのがデザインの本質である、という言葉で講演を締めくくられた。
尚、講演参加者にこれからデザインについて見直す時に役立つ、手元に残して立派なレジメが配布され、併せて感謝申し上げたい。
(文責:杉野)