10月度 例会「私の関わった医療機器及び最新X線技術のご紹介」

講師:岩崎 俊朗(F1会員)

 

<経 歴>

 1976年:京都大学機械工学課卒業、

      東京芝浦電気 医療機器事業部に配属

     (核医学診断装置開発を担当)

 1979年:工場移転(川崎溝の口より栃木県大田原市)

 1998年:超音波診断装置事業部

 2000年:開発アライアンスで、米国シアトルに滞在

 2003年:グローバルマーケティング担当

 2005年:超音波の海外営業担当

 2013年:退職。 シンガポールにて東芝超音波ビジネス支援。

 2016年:QuEST Global Services(インド開発会社)にて

      ヘルスケアビジネス担当


<講演内容>

Ⅰ.はじめに

本題に入る前に印象に残る勤務地での思い出を話します。

一つは、東芝医療機器事業部が移転した那須にある大田原工業団地について

那須塩原は日本最大の扇状地で明治の頃は水の無い不毛の原野。但し、扇端の湧水地では天然記念物のミヤコタナゴが拝める。

良い思い出としては、持ち家を得易く、温泉・ゴルフ・キャンプが手軽に楽しめ、子育てには最高。

良くない思い出としては、東京出張の帰りは上野発20:15が最終、冬の寒さは厳しく朝水が出ないことやシャワーが使えないことが度々。また優秀な技術者が集まらない。

二つ目は、退職後、シンガポールにて現地採用で、東南アジア各国にて学会発表、新規顧客開拓、学術宣伝活動を通して東芝超音波の拡販を推進。

 

Ⅱ.超音波装置について

超音波装置には、カートベース機器・普及期・ポータブルと三種類ある。

ポータブルはGEが展開する他、シーメンスは無線端末タイプを上市している。

超音波装置は、腹部・心臓・頸部・乳房・血管・経膣・運動器に至る殆どの人体内部部位が検査できる。

超音波検査に使われるのは超音波(20KHz以上)の中でも2M~24MHzの音波帯域が使われる。

超音波の速度は、空気中では330m/sであるが、体内臓器では1500m/s前後を用いて画像化している。

超音波装置が体内組織を画像化する原理は次の通り。プローブ(探触子)から超音波ビームを発し、ビームの放射角度を連続的に変えてビームをスイングさせることにより一定幅で体内組織に超音波を放射する。超音波は体内の異質組織境界面で反射する特性があるため反響した超音波を受信の上、電気信号変換して画像化する。

超音波は、高周波ほど分解能が高まる一方、減衰も大きくなるという特性がある。従って検査する部位によって上述特性を踏まえて音波帯域から周波数は選択的に設定されることになる。

体内に放射された超音波は種々の原理に基づき減衰するので、鮮明な画像を確保するためには、ある程度の強度が必要だが、あまり上げるとプローブ表面温度が上昇するため火傷などの注意が必要である。

肝臓ガンは、脂肪肝→肝炎→肝繊維化→肝硬変→肝ガンというプロセスを経て発生する。

昔は肝繊維化や肝硬変は触診に頼っていたが、今では堅い細胞組織内では超音波速度が速いといった特性により超音波装置によって肝臓がどのステージにあるか判別することが出来る。特に脂肪肝だと超音波が減衰し易いという特性や最新のドプラー技術を活用してガン細胞の血管生成状況を見てガンを特定することが出来る(研究段階中)。

超音波装置は、胎児についても全体像や顔かたちを見ることが出来る。但し胎児の超音波検査は医療行為というよりも出産前に親に親としての自覚と子供への愛情を育んでもらうといった要素が大きいと考える。

米国ではトム・クルーズが我が胎児を見たいがために超音波装置を自宅で購入して使用したことが切っ掛けとなり、無資格者に対する超音波機販売規制が「トム・クルーズ法」として法制化された。超音波は被爆問題が無いとは言え前述のように発熱の懸念があり、特に目への放射は危険である。日米ともに臨床検査技師(国家資格)に使用は限定されている。

 

Ⅲ.CTについて

CTは、ビートルズによる最も偉大な遺産と言われている。というのは、ビートルズのレコード製作・販売で大儲けしたEMIがその利益の一部をCTの開発投資に向け、その果実として1972年にハウンス・フィールドが開発に成功した。

日本では、東京女子医大が一億円を投じてEMIスキャナーを導入し、1976年に日本に於けるCT検査を受けた患者第1号の方から6つの脳腫瘍が確認された。

当初のCTは、スライド台に対して垂直断面上をX線管球を回転させ、スライド台を移動させながら正・逆回転を繰り返すというものであったが、その後、ヘリカル(螺旋)CTといってX線管球を螺旋状に連続的に回転させる方式に切り替えることにより高速化した。最近では、マルチスライス・ヘリカルCTといって体軸方向に幅広い検出器を装備することで更に高速化した。

CT技術の進歩を2005年と現在で対比させると、スライス幅は0.5mm→0.25mm、X線放射列は64→160列、管球の一回転時間は0.4s→0.275sとなっており、検査時間は大幅に短縮している。今では心臓の脈を管球一回転以内で把握できるため心臓を画像化できる。

管球を0.5sで回転させると遠心力は13Gとなりロケット打ち上げ時6Gと比べても機械装置としてかなり高度なものが要求されることが分かる。

 

Ⅳ.CTとMR検査の特徴比較

                            CT                                       MR

      簡便さ        検査時間短い                    検査時間長い

                       予約なしで検査可                  一般的に要予約

      人体への影響     電離放射線                              電磁波

                                   高分裂能細胞に障害              安全(長期的安全性は不明)

                                   妊婦・幼児は避ける              ペースメーカー装着者は避ける

      画像診断能力     血管検査は要造影剤              動脈検査可

                                   ほぼ水平面しか撮れない      任意断面で撮像可

  

Ⅴ.医療過誤

日本では放射線科医が読み取った「ガン疑い」が主治医のところで放置or無視され、ガン治療が施されない事件が2015年1月~2018年3月に37件発生。

これは、主治医が放射線部に依頼した画像検査の画像データを主治医が撮影目的とした部位のみに目を向け結論付けし、後日、放射線科医から送られた「画像診断報告書」を放置することにより起こることが多い。

日本は先進国の中でもCT・MRIの導入台数は圧倒的に多いが、一方、放射線科医の数は相対的に非常に少ない。日本では派手な外科医の志望者が多く、それに対して地味な放射線科医や麻酔医のなり手が少ない。これが画像診断報告書の速報性が劣ることになり、医療過誤の遠因にもなっている。

 

Ⅵ.最新のAI技術

AI技術を利用したCT画像の読み取りサポートシステムとして、ディープラーニング技術を活用したCT肺結節(ガンの疑いもあり得る5~30mmの辺縁明瞭な円形の陰影)の早期発見アプリケーション開発が進んでいる。

これは、肺ガンCT画像の中のガン部を専門医が指摘した画像データをシステムが学習してゆき、ガン部の特徴をパターン認識化して、新たな肺CT画像の中の肺結節をソフトが読み取るシステムである。

従来の画像処理方式に比べ検出精度93%、感度87%と高いパフォーマンスを示しており、放射線科医のサポートの可能性が期待されている。しかし、まだ機械的パターン認識に基づく判断に止まっているため、機械指摘には錯誤もあり発展段階にあるともいえるが、データ蓄積のマス化によって精度向上も期待される。

 

Ⅶ.新しいX線技術

最後にラド・イメージング代表の山河勉氏が開発した最新X線技術を紹介する。

従来のX線撮影を画像化する方法は、X線をシンチレーター(蛍光発生物質)に入射させて一度光に変換させており、その際に光が拡散するため画像に滲みが生じたが、新X線技術ではCdTe(カドミュウムテルライド:半導体)にX線を入射して直接電気信号に変換するため画像に滲みや歪みが少ない。

新X線技術の特徴は次の通り

    ・高画質:低ノイズで高画質、広いダイナミックレンジ(感応できる明暗差の幅)、高コントラスト分解能

    ・物質同定が可能:原子番号が0.05以下の実効原子番号の同定

    ・低いX線被爆

    ・高速動作

新X線技術はダイナミックレンジが広い上に、コントラストが良いため、画像コントラストが極めて鮮明となる。

また、広ダイナミックレンジは、例えば厚さの異なるコインを一回の撮影で事後、階調を調整することにより、それぞれのコインを鮮明画像として表示することも出来る。

新X線技術は、物質の識別能があるため医療分野で物質の原子番号や化学物質の組成および溶液の濃度差を判別することが出来る。

新しいX線技術は、ダイナミックレンジが広く物質同定(その化学物質が何であるかを見定めること)に優れているため、ブリをX線撮影することにより脂身(脂肪分)の多いブリか否かが判別できる。この技術を利用してマルハニチロとの共同研究で「油ののったブリ」の峻別の実用化を進めている。

当該新X線技術の実用化に向けたご支援頂ける企業(開発・製造・販売・出資などの分野で)があれば是非紹介願いたい。

 

以 上(文責 若色)