1月度 例会「救急医療を俯瞰し見える化することで質の向上に挑戦する」

~奈良とラオスにおける我々の試みから~

講師:夏井淳一氏(F1会員)

 

(略歴)

 福島県出身

 福島県立喜多方高校卒業

 山形大学を経て

 1995年山形大学大学院卒業

 1995年フクダ電子(株)入社

 30歳の時にイスラエルの企業で働く機会を得て、

 「イノベーション」に目覚める

 2012年、バーズ・ビュー(株)の創立メンバーとしてジョイン

 2016年より、バーズビュー(株)の代表取締役となり、現在に至る 

 

(講演内容)

 1.はじめに

今日のテーマは、「救急医療」。救急医療は皆さんにとっても極めて身近なものだが知らないことがいっぱいある。私はそれをビジネスとして深堀している。

どうしてこういうベンチャービジネスをしているかというと、大手ができないことだから。

日本三大ラーメンの一つである喜多方ラーメンで有名な福島県喜多方に生まれ、子供の頃から外食は、喜多方ラーメンしかないというほど喜多方ラーメン大好き人間で育った。大学院では生体情報工学を専攻し、心疾患患者の運動時の心拍出量無侵襲計測をドクターと共同研究。

卒業後、大手医療機器メーカーで生体情報モニタの組込みソフトウェアのエンジニ

アとして社会人をスタートしたが、机に向かい開発の仕事をしていたことから営業やメンテナンスと違い実際に病院に行く機会がなく、何となく実感が湧かなかった。それがきっかけでイスラエルに渡り、全てをカスタマイズ可能なユーザ本位のイスラエル製の手術室/集中治療室のシステムを日本に紹介し、医療の世界がわかってきた。

 

 2.宇宙医療

国際宇宙ステーション(IIS)での医療研究として、6か月に渡り滞在する宇宙飛行士の24時間心電図の測定・解析するシステム導入をしJAXA(研究代表:向井千秋氏)を支援した。

 

 3.バーズ・ビューは、在宅も含む救急と災害の課題をICTを使って解決に導く企業。

救急と在宅、災害は表裏一体。但し、問題は山積み。

 

 4.日本では、超高齢社会に進んでいくなか、救急搬送が増加しているが、特に搬送の中身をみると高齢者の割合が増加しているのが問題。一番顕著なのが東京都。東京都では、救急医療の東京ルールがある。そのルールとは、①救急患者の迅速な受け入れ(救急隊が病院を探し、4回以上断られたら当番病院が受け入れる)、②「トリアージ(救急医療の要否や診断の順番を判断する)」の実施、③都民一人ひとりが適切な利用をするよう都民の理解と参画、である。これにより、「たらい回し」を6割削減できた。さらに、日本臨床救急医学会からの提言により、がんの末期、老衰、救命の可能性がない患者に対し、本人または家族の希望に加え医師の指示により、救急隊員による終末期の望まない蘇生胸部圧迫や人工呼吸などの心肺蘇生法をしないという高齢者の救急搬送におけるDNAR(=do not attempt resuscitation)も実施されている。また、終末期にどのような医療やケアを受けるか、事前に家族や医師らと話し合う取組であるACP(アドバンス・ケア・プラニング)、愛称「人生会議」(11月30日は「いいみとり」から「人生会議」)も行われている。現在、ここまで救急医療は進化している。

 

 5.奈良県の救急医療への取組

12年前に発生した妊婦患者の「大淀町立大淀病院事件」がきっかけ。これは、分娩のため入院した女性が頭痛を訴え意識を失い容態が急変、高次医療機関への搬送が必要と判断され、救急による搬送が行われたがたらい回しされ、結局、脳内出血で死亡した事件。本事例が奈良県の救急医療問題の象徴となった。

政府は、最適な救急搬送を目指し、「疾病者の搬送及び受け入れの実施基準」を策定し、「メディカル・コントロール協議会(MC協議会)」の設置を指示したが、①データはあるが、バラバラ、②「電子化」されているが、「情報化」されていない、③データはあるのに活用できていない(Data Rich,but Information Poor)ということで、データを集めて情報に変えることを奈良県でスタートした。そしてデータを使って質の向上をするためのフィードバックをかけていくということをした。救急搬送というと「搬送時間」ばかりが注目されるが、最適な救急搬送とは、発症してから専門医の治療開始までの時間。そしてこの最適値を見つけるコンセプトが、3R(Right Time,Right Patients, Right Place)。これをシステムとして製品として作りあげれば、全国の救急隊で使ってもらえるのではないかということで始めた。問題解決のためにe-MATCH(コンセプトメーカーは、テキサス大学健康情報科学大学院の青木則明准教授)を開発した。e-MATCHとは、救急のデータを集める仕組みを構築し集ったデータを情報化のうえ、医療の質向上のためのPDSA(PLAN,DO,STUDY,ACT)を回すもので、地域全体の救急医療に対し、鳥の視点(Bird’s View)を持つことが重要(これが社名の由来)で、これをICTでやることが我々の会社。

 

 7.救急医療のトピックス

救急医療もスターが出てきている。ドクターヘリは、現在53機。一機に2億円を払っている。但し、経済効果については誰も測定していないのが現状。ドクターヘリを出動させるか否かの判断はドクター。スーパードクターとしては、NHKの「プロフェッショナル」でも紹介された兵庫県但馬救命センターの小林誠先生と共同でシステムを構築中。

 

 8.ASEAN(ラオス)の救急医療支援

まず、ラオスと日本の医療環境の違いに驚いた。救急指令センター、初療室、患者の搬送システムで、大きな相違があった。また、首都ビエンチャンの主要病院でさえ、診療記録が電子化されていない。そこで、救急部門、ICUの診療情報登録用クラウドサーバを提供し、8年間にわたり支援してきた。さらに、そのデータを利用して第1回ラオス救急医学会を2018年に開催。プラチナスポンサーになり、状況は一歩一歩進んでいる。

我々は、これからも世界の救急医療の質向上に寄与していきたい。

最後に、18年前にイスラエルへ渡り、医療システムの開発に携わり、現在でも当時の仲間と親交を続けている。また、イスラエルで開催される医療ICTの展示会に毎年参加している。そこで、シリコンバレーに流れてしまうイスラエルの技術を日本企業とマッチングさせるために日本イスラエルビジネス協会を設立し、現在代表理事を務めている。去る1月15日には、デジタルヘルスで日本とイスラエルの協力体制を進める覚書が締結された。

日本の救急を救う重要な要素は「予防」。年間の突然死は約75,000人。そのうち、8割が心因性と言われている。突然死した人が、働き盛りや会社の重役・ベンチャー企業の社長なら、経済的危機であり、国家的な損失。突然死の予防ソリューョンとして、体重や血圧を測るように心電図を継続的に測定し保存することである。そこで、心電図を図る機器を、エグゼクティブや大企業の健康組合へ普及すること有効である。

私のモットーは、①Let’s move(行動してから考える) ②フッパー(イスラエルで強引の意味)、③チームビルディング、④失敗を賞賛する(失敗が成長の糧)、の4点。

 

以上

                                  

(文責 星野)