2019年2月度例会 「中央カザフスタンと日本の類似点と一帯一路構想」

講師:柴田芳孝氏(F1会員)

 

(略歴)

愛知県出身

愛知県立岡崎高校卒業、名古屋大学農学部卒業後、1975年に(株)トーメンに入社、2006年の豊田通商(株)との合併を経て、2018年3月に同社を定年退職。(株)トーメン、豊田通商(株)勤務の43年間を通して、中東、アフリカ、欧州、北米、アジア、旧ソ連諸国等約65か国の案件に携わり、とりわけ2007年よりカザフスタン、ウズベキスタンに駐在し中央アジア5か国と本邦(外務省・経産省・国交省)間の活動に参画。カザフスタン駐在時には国家戦略のアドバイザーとして活躍された。

 

(講演内容)

1.     はじめに・・・カザフスタンについての基本情報

(1)面積、人口、地理、資源等

①  面積は日本の7.5倍あるが、人口は約1,700万人。

②  東西で時差が1時間、南北で約4,000km離れている。

③  国境は、ロシアと約6,000km、中国と約3,000km接するという地理的環境にあり、また、中央アジア諸国(4か国中)3か国(除くタジキスタン)とも接して

いる。

④  資源大国であり、石油・天然ガス他、多くの鉱物資源(プラチナ、ダイヤモンド以外)に恵まれ、特にウラン、レアメタル、レアーアースが豊富。

⑤  1人当たりGDPは約8,000ドルとかなり高い水準。

(2)旧ソ連時代の位置づけ・役割

①  ウクライナと並んで重要な穀倉地帯(主に小麦、大麦、トウモロコシ等)であった。

②  宇宙ロケット打ち上げ基地として有名なバイコヌールがあり、宇宙飛行士として名を馳せたガガーリンやテレシコアは現在のカザフスタンに住んでいた。 

→バイコヌールは、現在も主要な宇宙ロケット発射基地として存続し、ロシア、NASA,日本からの宇宙飛行士が飛び立っている。

③  セミパラミンスク市は、旧ソ連時代に456回の原爆実験を行った都市で、核兵器開発の重要な拠点であった。1991年に独立後直ちに国内にあった核兵器をロシアに返還し、更に、未だ残っていた1,400発の核弾頭もロシアへの返還している。

(→余談ながら、その後カザフスタンは核不拡散条約に署名し、また、セミパラミンスク市は広島市と姉妹都市関係を結んでいる。)

(3)旧ソ連からの独立

1991年に旧ソ連から独立。当初は首都をアルマティに置いていたが、1997年にアスタナに遷都した。その背景は、国防上アルマティが中国に近過ぎることから、加えて、ロシアとの距離(内政上、ロシア人居住者比率の高い都市への首都機能移転の必要性から)、更に、地震災害回避も考慮して、ということの由。

因みに、アスタナ市の都市計画全体、並びに大統領宮殿や主要官庁の建物は黒川紀章氏の設計によるもの。

(4)数多くの部族が共存

国内に約130部族以上が共存して、その上に国家が成り立っている。(各部族が家紋を有している。遊牧生活時代のゲル〈カザフ語ではユルタ〉には、同じ部族間の争いを避ける為にそれぞれ家紋が付いていた。)

(5)宗教・信仰

国教はイスラム教であるが、信仰は自由とされており、現在でもシャーマニズム信仰が根強く残っている。

 

2.     日本との類似点について

次の通り、数多くの類似点・共通点がある。

(1) 干支を有すること。因みに、カザフスタンだけでなく、中央アジアの各国・ロシア・ウクライナ・ブルガリア・ポーランド等も同様に干支を有するが、これはモンゴル帝国時代の侵攻による影響と言われている。(これらの地域は、当時モンゴル帝国のキプチャクハン国に属していた。因みにキプチャック族はカザフ族に属する。)

(2) 家紋を有すること。尚、カザフスタンでは家紋(部族)を継承する家長は女子となっており、家長は家紋を付けた銀製ブレスレットを身に付け、それを継承している。(その背景は、部族間の争いのリスクがあることから、留守を守る女子に部族を継承させるという習わしとなり、また紋章により部族間の先祖代々の関係を知ることが出来るようになっている由)

(3) 年長者を敬い、その意見を尊重するという民族性

(4) DNA

10数年前に開催された世界的医学会議に於いて、日本のDNA研究者が日本人のDNAに最も類似する民族がカザフ族であると発表している。その発表によると、両者は99.9%近く類似しているという内容。即ち、日本人もカザフスタン人も同じアルタイ族であり、生後6~8か月間、蒙古斑が残る。(カザフスタンにおいてもこの報告が広く知らされている)因みに、シベリアや極東に定住するチュクチ民族、ヤクーチャ民族、ネムツイ民族(カムチャッカに定住)等々もアルタイ族である。

 

3.     カザフスタンにまつわる話・・・意外と知られていない話

(1) カザフ語で日本人に聞き覚えのある言葉

①  モンゴル:その語源とされる「モンフォール」は「千人の兵の集団」という意味

②  バイカル:「聖なる水という意味(ジンギスハンが名付けたとされている)

③  エトロフ:「イトロフ」は「犬の島」という意味・・・狂犬病の蔓延から極東地域の犬を島に連れて行った、という説。

(2) 元素記号を発明したドミトリ・メンデレーエフ

元々サンクトペテルブルク大学で学び、また教鞭をとっていたが、鉱物資源の多いカザフスタンで研究をしていた成果の発見であろうと言われている。

(3) 食べ物について

①  揚げパンを主食としている・・・カザフ語では「バウルサキ」

②  うどんのルーツであると言われているのが「ラグマン」という麺食。ラグマンは、所謂スパゲッティ風、かけうどん風、またワンタン風がある。

因みに、東方見聞録で有名なマルコポーロがイタリアへの帰路カザフスタンに寄り、スパゲッティ風のラグマンを食し、その製造のヒントを持ち帰り、イタリアでパスタが生まれたと言われている。その他の種類で、ラブシャ:そーめん、ショルパ:野菜・肉入りスープ等もある。

(4)ジンギスハンの父母は元々カザフ族

諸説あるようで定かではないが、ジンギスハンの父親はナイマン族、母親はメルキト族(いずれもカザフ内の部族)であったと言われている。

尚、キプチャクハン王となったジンギスハンの長男・ジュチの墓は、現在のゼティカズガン市にある。

(5)ロシア・中国との友好的な関係を構築している

ロシア・中国の両大国と上手に折り合いをつけながら友好的な関係を保ってきている。因みに、プーチン氏と習近平氏は各々頻繁にカザフスタンを訪問している由。

 

4.     駐在時代に成し得た3つの事業・案件・・・大統領からの要請の3案件

~2008年6月大統領が訪日の際に要請・期待された案件

(1) 農業の近代化に貢献

2010年に現地と豊田通商とのJVで6000ヘクタールの農業事業(小麦生産)を開始したこと。

(2) 2011年、既設の自動車生産拠点の一つに本邦の自動車生産委託を開始したこと。(背景:カザフスタン国内には既設の自動車生産拠点が2か所あった)

(3) 交通インフラ面での貢献

2015年に安倍首相がカザフスタン訪問時に、カザフの投資発展省と国交省の間で、「交通インフラ等に係るメモランダムの締結」がなされたが、その橋渡しに貢献できたこと。以上

 

 

〈補足説明〉

①  数多くの写真を披露しながら講演をして頂いたが、中でも首都アスタナ他主要都市の写真、小・中学校の教室の授業風景等々大変印象的でした。

②  講演直後の質問が多く、その後の懇親会の席でも質問が続いたようで、カザフスタンについての話はさほどに新鮮で興味深かったものと思われます。

(文責 川畑茂樹)