講師:阿紀 雅敏氏(フォーカス・ワン会員)
(略歴)
1952年生れ、兵庫県出身
兵庫県立神戸高校、神戸大学農学部、
広島大学大学院修士課程修了後
1977年 カルビー(株)入社 研究開発、商品企画、品質保証部門等を経て上級常務執行役員
(研究開発本部長兼品質保証担当役員)
2014年~2018年 中国烟台カルビー商貿有限公司
董事長
2018年~
NPO法人食の安全と安心を科学する会(東大農学部内) 副理事長
6次産業化中央サポートセンター登録プランナー
神戸大学東京オフィス ディレクター
(講演内容)
1.はじめに
(1)カルビー(株)会社概要(2018年3月末現在)
①事業内容:菓子・食品の製造販売等
②本社所在地:東京都千代田区丸の内1-8-3 丸の内トラストタワー本館
③設立:1949年4月30日
④資本金:12,033百万円(2011年3月東証1部上場)
⑤連結売上高:251,574百万円(2018年3月期)
⑥従業員数:連結3,798名
(2)工場所在地
北海道から鹿児島まで全国14か所(R&Dセンターを含む)
物流費用の削減が主な目的
(3)成長の軌跡
1949年広島にて創業(キャラメルの製造販売)。
1964年「かっぱえびせん」発売
1974年 北海道3か所に馬鈴薯貯蔵倉庫を4棟建設
1975年「ポテトチップス」発売
1980年 北海道に原料(じゃがいも)関連会社 カルビーポテト設立
1991年「フルーツグラノーラ」発売
1995年「じゃがりこ」発売
2004年 研究開発拠点R&Dセンター設置
2006年「Jagabee」発売
2009年 ペプシコと戦略的提携 ジャパンフリトレーの子会社化
(4)コーポレートメッセージ、企業理念、ビジョン
①コーポレートメッセージ
掘りだそう、自然の力
②企業理念
私たちは、自然の恵みを大切に活かし、おいしさと楽しさを創造して、人々の
健やかなくらしに貢献します
③ビジョン
顧客・取引先から、次に従業員とその家族から、そしてコミュニティから、最後
に株主から尊敬され、称賛され、そして愛される会社になる
(2011年3月、東日本大震災の日に上場、ステークホルダーに順番をつけた)
2.ポテトチップス事業の特徴
(1)製造工程
じゃがいも→洗浄・皮むき→トリミング→スライス→フライ→ピッキング→味付け
→包装まで全工程20分で、アッという間に出来る
(2)カルビーのSCM(サプライチェーンマネジメント)の考え方
カルビーの場合、じゃがいもの新品種の開発から始めて栽培農家とのコミュニケーションが一番大事。
ポテトチップスでは、品質とコストの配分の影響力は、品種5割、貯蔵と原料流通3割、工場2割と
いうことで、マネジメントは農場にある。さらに、お客様対応で、クレームを出されたお客様を
ファンにする。つまり最後はお客様への対応が次のビジネスにつながる。最初と最後が大事。
(3)国内のじゃがいも使用量の内訳
合計229万トンのうち加工用は、18.7%の42.9万トン
加工用じゃがいものうち、67.6%の29万トンがポテトチップスで、そのうち、カルビーは、
89%の26万トンを使用
(4)じゃがいもの収穫前線
鹿児島の5月上旬から、北海道の8月中旬~10月中旬まで
(5)じゃがいもの購入量
カルビーで使うじゃがいもは、全国26万トンのうち、北海道が20万トン、その他府県が6万トン
(6)じゃがいも事業の構図
サイズ、澱粉含量、還元糖含量、貯蔵適正を勘案し、特定品種を契約栽培。
原料と生産技術の組み合わせにより、ポテトチップス用、ジャガビー用、
じゃがりこ用、生地スナック用、冷凍食品用、青果用等に振り分ける。
そうすることにより、コストと品質が保たれる。また、基盤技術は農業で、新品種の開発には10年
かかるが、いまやっているのは10年先の品質とコストをいかに担保するかということで、これが
研究開発の重要なポイント。
3.競争的品質と義務的品質(ポテトチップスを例として)
(1)競争的品質
競争優位な品質要素に選択・集中して他社を凌駕する
「パリッとおいしい」商品コンセプトの実現
(2)義務的品質
全ての品質要素において競業他社なみを実現することで、コゲとこわれ等の消費者クレームに対応すること。
一見関係がないようだが、競争的品質と義務的品質の2つは、原料のトレーサビリティで繋がっている。
このトレーサビリティが、競争的品質と義務的品質の2つをつなぐ橋渡しの役割をしている。
(3)競争的商品の作り込み
①品質には順番がある。すなわち、外観、食感(日本では特に重要)、味、香りで順番をつけている。
②日常の品質管理
工場長以下、毎朝、前日の製品をチェックするのが基本。それをPDCAで廻し、年1~2回の
マネジメントレビューで共有化し、レベルアップを図る。
③商品コンセプト実現のためには、芽とコゲのディレンマを解決することが重要。
じゃがいもは年に1回収穫して、365日消費するが、生きているので芽がでてくる。
これをそのままフライにするとクレームが出てくる。低温貯蔵すると芽は出ないが、
じゃがいもの呼吸が活発になるため還元糖が増加し、焦げる。
フライ温度を下げると焦げないがパリッとしない。
これらを解決するための対策として、エチレンによる貯蔵中の萌芽抑制、貯蔵適性の
いい品種の選択、コンテナ単位での貯蔵管理を行っている。
④さらに、店頭起点の営業活動として、パッケージ前面に賞味期限を表示した。
また、味のバラエティ化をする際にアレルゲン混入対策を実施、コストはかかったが、
工場稼働率向上によりコスト削減が実現できた。
⑤また、ポテトチップスは、心地よい食感と製品のこわれという二律背反問題があるが、
これを解決するために製品搬送中の落差、スライス時の衝撃緩和等通常の現場改善活動に加え、
ジャガイモの品種、栽培方法等カルビー流発想により対応した。
(4)新品種の開発
農産物は最後は種。コスト、品質のために育種目標設定を設けることがマネジメント。
そのために、帯広畜産大学バレイショ遺伝資源開発学研究室とコラボ、画期的な新品種を生むための
基盤整備をしている。
4.食の安全・安心
(1)以前、中国でカルビー向け原料調達会社の董事長をやっていた。日本向け農産物は安心。
中国でやってきたのは、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の徹底実践。
中国で輸出に力をいれている食品会社は、日本の中堅企業より進んでいる。但し、現場は別。
中国の企業は、カルビーから指導を受けているのが売りになる。品質をあげると儲けにつながるから。
(2)現在は、NPOで「食の安全と安心を科学する会」の仕事に従事している。安心とは、安全×信頼。
安全とは、科学。信頼は、組織の総合力。特にお客様窓口が重要。カルビーのお客様相談室では、
お客様からのクレームを2時間15分までに答えを出してお客様へお詫びに伺うようにしている。
また、クレームの原因究明を2週間で出し、お客様にアンケートを取ることにより再購入率95%を実現。
また、ホームページで情報を公開し、お客様からの信頼につなげている。
(3)NPO法人食の安全と安心を科学する会では、食のリスクをどうとらえるかという観点から、
食の放射能汚染、食品添加物、メディア、食品衛生微生物等につき研究をしている。
以上
講演を聞き終え、日頃、テレビを観ながら、ビールを飲みながら気軽に食べているポテトチップスに対し、これほどまでの情熱と研究開発を傾けているカルビーに、頭の下がる思いを強くした。
講演後は、ポテトチップスを肴に賑やかな懇親会が開催された。
(文責:星野)