2019年5月度例会「エノケン喜劇と『笑い』」                             講師:原健太郎氏(大衆演劇研究家)

「あなたは昭和の喜劇王、エノケンを知っていますか?」、「名前は聞いたことがあるけれども、さて?」というのが多くの方の答えだと思われます。

今日の講演の講師は原 健太郎氏、同氏は大学時代に演劇を学び、卒業後児童図書関係の出版の仕事に携わりながら笑いと演劇の研究を続け、定年退職してからはエノケンを軸に喜劇の歴史を深堀りして、真の「笑い」とは何かを追い求めるのをライフワークにしている方です。「東京喜劇〈アチャラカ〉の歴史」、「日本喜劇映画史」などの他、この紙面では紹介し切れないほどの著書があるこの分野の国内の第一人者です。

演題は「エノケン喜劇と『笑い』」、まずは「エノケン」の紹介から始まります、昭和初期に浅草で設立された「カジノ・フォーリー」の旗揚げに参画、エロ・グロ・ナンセンスの時代相を先取りし、洋楽であるジャズを舞台に取り入れ、アメリカの喜劇映画の映像トリックを利用しスピーディでナンセンスなギャグを再現するといった、新しい形式と内容を持ったレビュウ式喜劇を世に送り出した人物だそうです。エノケンは70年に他界しており、同氏は中学2年生、残念なことに生の舞台を観劇する機会はなかったとの事です。

既存の喜劇とは全く異なる、所謂アチャラカに代表される「東京喜劇」は、音楽的な才能に恵まれ、体技もしっかりしていたエノケンと彼を取り巻く役者や有能なスタッフらの存在なくしては誕生していなかったとの事です。アチャラカの笑いには、マジメくさったもの、エラそうなもの、ひいては権力そのものを打ち砕く反抗精神が籠められていたといいます。

エノケン喜劇を語るなかで、同氏は「今、目の前にある笑いは本当に面白い笑いといえるのか?」と問いかけてきます。今、我々の周りに溢れているテレビなどの笑いは周囲の人の容貌、個性を面白可笑しく表現して無理矢理に笑いを強いるといったレベルの低いものであると指摘しています。

笑いは、年齢、経験、知識、センス、思想信条などがかかわる、人間臭く、個人差のあるものだそうです。万人が笑える笑いはない、との事。さて、今だったらエノケンはどんなものを演ずるのだろうか?

我々は普段何気なく笑っているが、果たして「笑い」とは何か、について考えさせられる講演でした。

(文責:杉野)