2019年11月度月例会「東日本大震災及びタイの洪水に学び、次の巨大災害に備える」

講師:三ヶ尻 隆 氏(非会員)

~神奈川県出身。神奈川県立光陵高校卒業、東京工大工学部卒業後、メーカ勤務を経て、1981年東京海上火災保険(株)(現在の東京海上日動火災保険)に入社。職務歴:まず安全サービス部に所属して「企業の財物に係るリスクマネジメント」の業務に携わり、その後シンガポール駐在を経験の後、1998年に東京海上リスクコンサルティング(株)〈略称:TRC〉(現在の東京海上日動リスクコンサルティング)に出向し、同社常務執行役員を務めた後、現在同社の最高技術顧問の職にある。TRC出向後、日系企業が世界各国に展開する工場等(大手自動車メーカーや化学メーカー他)についてのきめ細かな防災コンサルティング業務に従事し、極めて専門性の高いアドバイスを行ってきている。

 

〈講演内容〉

1.東日本大震災(2011年)と阪神・淡路大震災(1995年)のベンチマーク

(1)まずは、世界各地において過去20~30年に発生した大規模災害を羅列した後、とりわけ被害額、死者数が多かった近年発生の大規模地震について、統計表に沿って説明がなされた。

①被害額の大きさの上位1、2位は、東日本大震災:約2,350億ドル、次いで阪神・淡路大震災:約2,000億ドル

②死者数で見ると、10万人を超えたのが、ハイチ:約316,000人(2012年12月)、スマトラ島沖:約228,000人(2004年12月)で東日本大震災は7番目に多く、約18,000人となっている。

 

(2)地震のタイプ等について、東日本大震災と阪神・淡路大震災の比較並びに今後発生する可能性があると言われている「南海トラフ地震」、「首都直下型地震」、そして「上町断層帯地震」について、予測値を含めて比較した表が次の通り。

 

 

発生

地震のタイプ 地震規模
 東日本大震災 2011.3.11 海洋プレート型  M9
阪神・淡路大震災 1995.1.17 内陸断層型 M7.3
南海トラフ 海洋プレート型 M9(予測)
首都直下型 海洋プレート/内陸断層型 M7.3(予測)
上町断層帯 内陸断層型 M7.6(予測)

(補足説明)

確率論による近代化されたシュミレーションにより、地震発生についての予測がより可能になってきており、例えば、首都直下型地震は従来の予測よりも浅い震源で発生すると見直され、また震度7.6強になるであろう地域が更に拡くなるものと予測されている。

 

(3)阪神・淡路大震災と東日本大震災との違いについて

 阪神・淡路大震災

  - 都市直下の内陸型地震であったため、多くの建物に対して直接的な構造被害が見受けられた

 

 東日本大震災

  - 海溝型、浅い海域で発生した地震であり、大きな津波被害が発生した

  - 建物の震動被害は限定的であった

  - ただし、長周期振動により大阪の高層ビルにも被害が起きた

 

(4)津波について

①東日本大震災の津波の発生について

津波の遡上距離を過小評価していた可能性が高く、人命を落とされた65%の方々が浸水想定範囲外に居た、と言われている。

②津波は、海が深い程、その速度が早くなる。

➂地形効果による津波の増幅という点では、岬には高い津波が来やすい、V字型の海岸線には津波が集中しやすい。

 

(5)巨大地震への対応についての進言・・・課題認識と対応策の立案の必要性

①課題認識

 1)日本の産業は太平洋ベルトに工業地域(北九州、阪神、中京、東海、京浜、京葉など)が

    集中するが巨大南海トラフの津波被害を受けやすい

 2)インフラ(港湾、電力など)も太平洋岸にありサプライチェーンの途絶が想定される

 3)日本企業の海外生産事業体へのキーコンポーネンツは国内で生産される割合が高く被害を

    受けない海外事業体も操業が途絶したりアフターパーツが市場に供給できない恐れがある

 4)国内の東西の道路や鉄道網が使用不能となり産業間連携が途絶する恐れがある

②対応策

 1)地震と津波の被害想定は、立地点(緯度経度)で決まるので定量的な被害想定を行う(実態の把握)

 2)被害想定を行い許容レベルを確認する

  (海外への資器材の供給が滞らないか、アフターパーツが提供し続けられるかなど)

 3)代替の流通網を計画しておく

   - 日本海側の積出港や関東圏の物流拠点などは機能する可能性が高い

 4)拠点間に相互依存度を低くして、各拠点の自立、拠点域内での完結を高める

 

 

2.タイの洪水から学ぶ

~全体の講義時間の配分からこの項目についての説明は短縮され、特に強調された点を記すと

(1)タイで発生した大規模な洪水災害の防止策としては、やはり治水対策が極めて重要である。

(2)首都圏に於いて、荒川の氾濫リスクを想定するに、インフラが余りに古くなっており、面積でマイナス海抜が全体の24%を占める江東区を始め、江戸川、墨田、足立、葛飾の5区については、特に対策の再構築が必要と思われる。

 

 

3.「次の巨大災害に備える為に、災害に強い企業体質を如何に作っていくか」について

(1)次の巨大災害に備える為の企業体質作り

   【何のために】を明確化する

     - 持続的な成長を目指す

     - お客様の負託に応える;供給を途絶させない

     - 世界シェアーを維持する

     - キャッシュフローが行き詰まらない(会社をつぶさない)

          ⇓

    巨大自然災害の発生時において

     - 優先的に実施すべき業務を明確にし、

     - 許容されるサービスレベルを保ち、

     - 許容される期間内に復旧するために、

    組織体制、事前準備、災害発生時の対応方法などを想定した実行計画を定める

 

              これまでのパッチあて的なリスクマネジメントの在り方は見直しが必要

 

(2)巨大災害に備える為の施策

①事業を途絶させる想定外のシナリオを極力少なくする

  - 南海トラフと首都直下型地震、さらに上町断層や猿投-高浜断層、加木屋断層などを想定した財物の損害、

    事業途絶機関の想定が望まれる;プレート型地震の前兆として断層が動く可能性は否定できないので

    最悪のシナリオにより想定外を排除する

  - インフラ(電力、港湾、幹線路など)の損害を想定した物流の対応を考える

②グローバルな視点で事業計画を策定する

  - グローバル化するサプライチェーン(供給者・納品者)のリスクの見える化を推進する

  - 世界の拠点の横断比較を行い課題認識とあるべき姿のギャップを埋める

③優先させる機能と役割を絞り込む

  - 巨大災害ではすべてを維持できないので収益の柱などを優先させる

④近代化ツールを活用してリスクの可視化を進めてリスク管理対応力を増強する

  -【想定外、これまで経験したことの無いような】という事象はシュミレーターを利用すれば、仮想での原体験が可能

 

  ⇒ 巨大災害を経験した日本がリーダーシップを発揮して

    次の巨大災害に備えるマスタープランを策定し中長期に取り組む

 

(3)リスクの可視化・定量化も不可欠

 

リスクモデルが可能とすること

リスクの見える化

   ⇓

リスクの定量化

   ⇓

ベンチマークによる検証

   ⇓

減災を視野に入れたリスクの最適化

 

 


近代化した防災技術がなし得ること

透明性の高い課題形成

   ⇓

説明責任を果たす問題解決手順

   ⇓

経済合理性のあるアクションプラン


以上

 

 

 

1時間弱という限られた時間で、用意されたレジメの枚数も多かったのですが、極めて専門性が高い内容を大変判り易く話をして頂き、また中身の濃い、示唆に富んだ講義内容でありました。 

(文責 川畑茂樹)