2022年2月22日 2月度月例会 講演会「お酒にまつわるよもやま話~日仏日本酒事情」

 

講師:石田  陽介(いしだ  ようすけ)氏

 

講師略歴:群馬県立高崎高校卒、京都大学文学部卒、同大学院、

  文化庁食文化プラットフォーム委員、JSA認定ソムリエ、

  WSET(Wine and Spirits Education Trust:本部イギリス)

  認定国際唎酒師(Level3 award in sake)

 

星野リゾート、オリエンタルランド、フォーシーズンズホテルにてソムリエやマネージャーとして経験を重ね、2017年渡仏。日本料理「ENYAA」(仏・パリ)マネージャー兼ソムリエを務め、2021年に帰国。

現在は株式会社ノットワーク代表として複数の飲食店へのコンサルティング、文化庁食文化保護・普及事業、国税庁酒蔵ツーリズムなど、ガストロノミーや芸術文化に関わる事業を展開されています。

 

本日は、コロナ禍などもあり昨年7月以来の久々の講演会となったが、テーマも講師もとても魅力的であったこともあり、約40名の参加を得て盛況な開幕となった。

 

<講演要旨>

フランスのアルコール事情は、わが国で日本酒消費量が減少し続けているのと同様に、仏国内でのワイン消費量は減少を続けている。健康志向によるアルコール消費の減少とアルコールの選択肢の増加と、その理由は洋の東西を問わない。

消費をけん引する20・30代のBoboの嗜好は、社会問題に紐づいた捉え方をし、クラシックなワインより自然派を好み、日本酒も好む。

仏国内の日本酒普及には、獺祭や醸し人九平治などのメーカーやディストリビューターが大きな貢献を果たした。

高品質なワインで知られる地域としてボルドー・ブルゴーニュ・シャンパーニュなどがあるが、生産量が最大のものはラングドック・ルーション産。

 

【フランス日本酒事情(その1)】

日本酒がフランスで人気があるような報道があるが、主にパリの日本料理店だけで、まだまだ限定された場所・空間でのみ楽しまれているのが現状。地方への消費の拡大や日本料理店以外での取り扱いが課題だ。

仏人ソムリエの中にも日本酒愛好家が現れるなど、日本料理店以外でも日本酒ファンは生まれているものの、彼らが「仕事場」で日本酒を使用するには、まだ高いハードルがある。いくらお酒が好きでも、仕事では使えないと云うことだが、フランス料理の食材として柚子・ワサビ・紫蘇などが登場して来ているので、日本酒も徐々に浸透して行くだろう。

 

【フランス日本酒事情(その2)】

私が接してきたパリの多くのゲストは、日本酒の知識は殆ど皆無だ。日本マニア・日本酒好きも一部いるが、彼らはGinjo, Junmai, Nigori, Sake chaud(燗酒)といった言葉を知っていることがある。

フランスは食育が行き届いており、食に対する知識欲のかたまりのようで、日本酒に関しても、熱心に聴いて来る。

 

【フランス日本酒事情(その3)】

「菊姫」山廃18年ものの力強い古酒を供した折には、香りを楽しんでもらうため、お猪口ではなく、ワイングラスで提供させてもらった。

私が接してきたパリの人々の感性と嗜好としては、許容できるアルコール度数は最大15-16度まで(従来の日本酒よりやや低め)で、甘さに対する感受性の違いがある。

フランス料理は和食と違い、甘さを加えず、甘みを想定していない。

フランス人やイタリア人は、作り手の意図や哲学を探り当てようとする貪欲な姿勢があり、熟成させるために酒蔵がどれだけの労力を払っているかに対する「評価」や「敬意」の念を持っている。

ここ数年で認知されるようになったUMAMI(旨味)ブームの影響もあって、「旨味」を活かす日本料理が評価されると共に、旨味成分豊富な日本酒も注目されている。

 

【フランス日本酒事情(その4)】

近年の動きを見ると、新世代日本料理店として、「ENYAA」、「OGATA」がある。

「ENYAA~Sake&Champagne」では、赤・白ワインやビールは置かずに、カウンター席の目の前で刺身をおろす本物の技術が見られるようにしている。「OGATA」(建築家・デザイナー緒方慎一郎氏がオーナー)は、パリのマレ地区にある石造りの建物の最上階にある日本料理店。

Kura Master & Salon de Sake(日本酒の鑑評会)などの催しや、今までの慣例に囚われずに現地で日本酒造りを始め、3シーズン目に入ったWAKAZEなどが注目される。

 

【フランスで得た知見から】

Restaurant ENYAAでいただいた約3万人の方の日本酒へのフィードバックを日本国内で、どのように活かしていくか模索中だ。

知見を一つの形としてまとめ、提案しているのが『Sake Pentagram』(酸味・甘味・苦味・塩味・旨味の五角形)を用いたペアリングメソッドだ。日本で提唱されているペアリングメソッドにはない視点を提供するものと考え、普及活動を始めている。

例えば、「調和のアプローチを用いたペアリングの典型的モデル」では、ほとんどのペアリングの場面では、料理が主役でお酒が引き立て役になる。そのような場合、お酒のボリュームは料理のボリュームより少し控えめなものにするのが望ましい。

塩味以外の4つの味を、料理を主役にして調和させる。

また、相補のアプローチを用いた典型的モデルの相補のペアリングでは、料理とお酒がそれぞれの五角形の足りない部分を補い、二つの図形を組み合わせることで一つの五角形を形成する。

 

【国内の日本酒事情】

醸造アルコール(食用エタノール)を使用しない純米酒の主流化や伝統製法の復古の動きがある。一方で先端技術による酒造り、地元米の使用、酒蔵自ら米作りをするなど、その土地の個性を表現した酒造りも出てきている。

コロナ下では停滞したものの、輸出は堅調だ。

酒造免許の取得はハードルが高いが、その他の醸造酒造りを模索するなど、プレイヤーも拡がり、酒造りの多様化が進んでいる。

20~40代の若手生産者の活躍や、良いお酒を楽しもうという風もあって、単価の向上などポジティブな流れも見られる。

もちろん日本酒を呑む機会が減り、マーケットの縮小や若年層の酒離れなどのネガティブな流れは無視できない。京都府立大学との共催で成人の日に「二十歳の食育」、大丸有(丸の内・大手町・有楽町)発の「大丸有SDGsプロジェクト ACT5」などの企画やイベントにも取り組んでいる。

これからも環境への配慮やSDGsも意識しつつ、「日本酒」の魅力を発信し続けて行きたい。

 

(文責:立山秀)