2022年4月26日 4月度月例会 講演会「2050年カーボン入への潮流 ージャーナリストの視点から」

2022年4月の講演会は、新型コロナがいまだ収束しないなか、4月26日、Zoomにて実施された。講師には、日本経済新聞編集委員の滝順一氏をお迎えし、「2050年カーボンニュートラルへの潮流―ジャーナリストの視点からー」と題し、ご講演を頂いた。

滝順一氏は、1979年早稲田大学政治経済学部ご卒業後、日本経済新聞に入社。産業、地方経済の取材を経て1984年より科学技術政策、原子力、宇宙開発、医学などを担当、2007年より科学技術部編集委員。2009年より論説委員を兼務、現在は編集局経済解説部編集委員室編集委員。

 

今回の滝順一氏の講演を拝聴し、改めて気候変動問題の重要性を再認識させられた。講演主旨は、下記の通り。

 

 

1.エネルギー問題と気候変動は表裏一体のものなので、そういう観点から本日は、話をしたい。

 

2.まず、気候変動研究の先駆者で、2021年ノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏(現在プリンストン大学の研究者)の紹介があった。

IPCC(地球温暖化問題を扱う国際機関)の第1作業部会の第6次報告(2021年)では、温暖化は、人間活動の影響に疑う余地はなく、産業革命と比較してすでに約1度上昇しており、2040年までに約1.5度上昇に達するリスクが大きいとしている。

 

3.気候変動をめぐる簡単な歴史の紹介

2015年に採択されたパリ協定では、世界の全ての国・地域が参加し、各国政府が自主的に削減目標(NDC)と計画を提出した(1997年に採択された京都議定書では、先進国のみに努力を求められた)。ちなみに、日本の排出削減目標は、2013年を基準に2030年-46%、2050年カーボンニュートラルというもの。5年ごとに目標強化の「グローバル・ストックテイク」を定めた。

 

4.各国の排出量

2019年の世界のエネルギー期限CO2排出量は、中国が98.8億トンで29.4%、

次いでアメリカが47.4億トンで14.1%、日本は10.6億トンで4.9%。また、国別一人当たりでは、資源国カタールが、30.68トンで最大であり、日本を含む先進国が続いている。また、国別では、中国の伸びが急速。中国は2030年までに排出量を

ピークにもっていき、その後減らし、2060年までに0にすると宣言。

 

5.カーボンニュートラルについて

カーボンニュートラルとは、CO2の排出と吸収がバランスするということ。まずは、

カーボンボンニュートラルを目指す。そうすれば、温暖化は大きくは進まない。ごれには、

実はマネーが後押しをしている。気候リスクには、物理的リスク、訴訟リスク、政策変更

リスクがあり、事業会社においては、気候変動リスクを開示することが求められている。

投資家、金融機関の側からも、気候変動リスクを開示し、リスクを減らす対策を示すべき

だとの機運が高まっている。

 

6.カーボンプライシングについて

CO2の排出に価格をつけることにより、CO2削減を図るもの。具体的には。炭素税という形で排出量に税をかけるか、排出量取引で事業者ごとに排出量の総量を決めるというもので、話題になっている。日本では、自主参加・自由目標のGXリーグを作ろうというのが流れ。

 

7.経営戦略としての気候変動対策

キリングループの環境報告書、日立製作所のサステナビリティ報告書等につき紹介があった。

 

8.日本の戦略

2021年6月、2050年に約290兆円、約1800万人雇用の経済効果を生むグリーン成長戦略を打ち出した。さらに2022年6月、クリーンエネルギー戦略を出す予定。中身は、電力部門の脱炭素化、非電力部門の電化・省エネ等。

但し、化石燃料に7割を依存している現状では、2030年に4割までの化石燃料低減は厳しいと思われる。

 

9.電力の脱炭素化は必須

再エネの主力電源化は、立地とコスト(統合コスト)、サプライチェーンの構築が課題。

原子力についてはまだ再稼働の段階で新規立地の見通しは困難。火力は、排出されるCO2を埋めないといけないが、国内に埋める場所があるのかが問題。

 

10.電化

自動車の電動化はトヨタ、ホンダを中心に進んでいるものの蓄電池がカギ。製造プロセスの電化は、日本製鉄が電炉を新設するなど動きが出てきているが、まだ先になるだろう。住宅の電化は、ヒートポンプ、燃料電池しかないと思われる。

 

11.省エネ・効率化

AI・IoTを活用した省エネの推進、建築物・住宅の省エネ基準の強化、セクターカップリング(電気自動車、ヒートポンプ等需要側の柔軟性)、サーキュラーエコノミー(リデュース、リユース、リサイクル)、公共交通機関、自転車の利用拡大等が民生部門ではある。

 

12.新たなエネルギーキャリアとしての水素・アンモニア

これまでの電気に加え、「グリーン水素製造(水電解)」が、東京電力等で試みが始まっている。これは、技術的には目新しいものではないが、コストが課題。

 

13.ネガティブ・エミッション&カーボンリサイクルの動き

海や森がCO2を回収してくれれば、その分だけはCO2が出せるが、それでも足りない場合、スイスのベンチャー企業クライムワークスでは、大気中から空気を吸収しCo2を抜き取り、地下に埋めるプラントを昨年から動かしており、削減クレジットを販売している。

将来、こういうプラント(DAC)がどんどん出てくるかもしれない。

 

14.COP26の先

最近、人新世(Anthropocene)という言葉を目にする機会が増えてきているが、この意味は、人間が地球に爪痕を残す時代が始まったのではないかということ。20世紀の半ばからは、人間が地球の気候を変え、人類の存在が地球環境を変えており、歴史の大きな転換点を迎えている。このような中、人類が自然と共存していくために今年、生物多様性会議が開催され30by30世界目標(2030年までに国土の30%を自然保護区にする)が採択される予定。SDGs(持続可能な開発目標)は、あまりにも有名なので省略する。

 

15.本日、特に強調したいこと

令和3年度防衛白書では、気候変動を安全保障上の課題として重大な関心を持って注視していく必要があるとしている。これは、日本の防衛は気候変動を考慮しないといけないということをいっている。NATOも、2021年7月、気候変動と安全保障に関する計画を打ち出している。

 

16.ウクライナ戦争

ウクライナ戦争により状況が変わったのではないかということが最近よく報道されている。ウクライナ戦争は、Tank(ロシア)対Bank(アメリカ等の西側)ともいわれている。ウクライナ戦争により、エネルギー価格の上昇、諸資材の値上がりがしているなか、ロシア産資源依存度からの脱却が出てきている。ドイツでは、脱炭素化の構造転換を早める動きをしており、英国では原子力比率の引き上げ、フランスでは欧州型原子炉の建設再開の動きがある。

日本では、S+3E(セイフティー、エネルギー安全保障、環境、経済)の呪縛から、気候変動対策に長期的な視野にたった議論がされていないのが現状。

原子力については、気候変動対策のうえでは個人的に必要と考えているが、政府は依存度を低減させるといいながら、原子力はグリーン成長を担うという矛盾したことをいっている。日本の原子力政策をどうするのかということにつき先送りせず、そろそろ政治的決断をすべき時期に来ていると思う。

 

17.日本財団がやった18歳の意識調査(おまけ)

日本の温暖化ガス排出量については、2021年の調査では、73%が削減すべきだと思っている。また、CO2削減のためには、66%が再生可能エネルギーの開発促進をすべきという意見。原子力の再稼働については、わずか10.7%。

 

                          (文責 星野)