2022年7月29日月例会講演
京都大学iPS細胞研究財団 事務局長 中植由利子様
中植様のプロフィール
京都大学の職員として、本部や研究所の総務・広報に関わる。
2019年4月よりiPS細胞研究所に着任、研究財団の設立、iPS細胞研究基金に携わる。2011年から独立行政法人日本学術振興会(4年)、2017年から一般社団法人国立大学協会(2年)に出向。
【講演録】
【1】 iPS細胞(Induced Puripotent Stem cell)とは:人間の体の細胞は受精卵が細胞分裂して神経細胞、軟骨、血小板などさまざまな細胞になることから、逆方向での細胞作製は不可能と考えられてきたが、2007年山中先生が皮膚や血液などの体の一部からiPS細胞を作成することに成功した。皮膚などの体細胞に山中因子とよばれる遺伝子を導入することで、リプログラミングを促し、特定の刺激を加えることで理論的には、体を作るすべての細胞に分化させることができる。
【2】 iPS細胞技術~再生医療の現状と課題~
☆ iPS細胞の研究が進展し、医療への応用が進めば、①再生医療 ②創薬 ③オーダーメイド医療 が実現する可能性が期待できる。
☆ 再生医療実用化までのステップ:基礎・応用研究→臨床研究→医師主導治験・企業治験→臨床応用
☆ 現在臨床応用できるものはまだないが、臨床研究・治験段階にあるものの一覧(図)
(臨床応用とは、保険適用され病院で誰もが治療を受けられるものと定義する)
関節疾患の一例として、現状は患者の軟骨を取り出して培養し再度それを埋め込むため、2度の手術を必要とする。iPS細胞技術を使えば一度の手術ですむのはメリット。
最近のニュースで、角膜上皮細胞疲弊症の患者にiPS細胞から作った角膜組織を移植し視力が回復したことが報告され、実用化への大きな一歩となった。
☆ 臨床研究で最も進んでいるのは、血小板減少症治療(輸血治療)で企業治験の段階にある(治験には莫大なコストがかかるが、ベンチャー企業:メガカリオンが資金調達に成功)。
☆ iPS細胞の臨床研究が難しいことは安定性。安全性が求められる故。iPS細胞財団(以下CIRAF)では、今できる品質試験を全て行っている(国内、グローバルでも基準がないための保険として)。治療全体のコストとして:①iPS細胞樹立のため②必要な細胞に分化させるため③医療機関での治療費④保険適用されるか? など、数千万円かかる可能性がある。
【3】 iPS細胞研究財団の取り組み
☆ 理事長山中先生の理念として、iPS細胞技術を当たり前の医療へ:日本で薬価、診療報酬がつくようにしたい。財団として使命。理念、価値観、行動指針を定めている。公益財団として利害に影響されない中立性を保つことが大切と考えている(従来製薬企業などからの寄付は利益誘導的意味合い?)。
☆ 京都大学iPS細胞研究所の外観紹介、財団もその一部を使用している。
理念としてiPS細胞を製造・ストックする機能を別法人化し、財団として、①品質を担保されたi PS細胞を製造・保管し ②適正価格で随時提供可能とし ③アカデミアやベンチャー企業の参入障壁を低くする ために活動することを是とする。
☆ iPS細胞研究、実用化への15年の歩み:マウス由来iPS細胞樹立(2006)→ヒト由来iPS細胞樹立(2007)→京大iPS細胞研究所(2010)iPS細胞ストックプロジェクト始動、国の支援(2011)
☆ iPS細胞を使った臨床応用が進展(対象疾患と第一症例投与時期):加齢黄斑変性(2017)、パーキンソン病(2018)、角膜疾患(2019)、心不全、膝関節軟骨損傷、網膜色素変性症(2020)、卵巣がん、亜急性脊髄損傷(2021)
☆ CIRAFの役割:基礎研究と産業界との橋渡し(実用化に向けた様々な障壁を低くする為)として、iPS細胞技術を医療に生かすための組織としての役割。財団としての中立性を保ちつつ。最後は患者さんのため。ONE TEAMでの実現(ドナー、医療機関、研究者、起業、国・自治体)を目指している。
☆ My iPS プロジェクト:現在1ドナーあたり400万円かかっているコストを、2025年には100万円に(大阪 中之島未来医療国際拠点で)。
【4】 財団の財源:国からの支援、事業収入、寄付から成り立つ
☆ 事業収入:細胞提供をアカデミアには無償、企業にも実費のため実質赤字。この目的のため財源確保で寄付を募っている。個人・法人のサポーターは2021年で17万6千件。
☆ 山中理事長の財団構想時のエピソード:①通常は研究者を集めるが、知財、契約、広報。寄付集めなどのスタッフも募集した(研究者にその他の雑用をさせても意味がないし、専門的知識を持った者が橋渡しの役割には大いに役に立つため)。②国立機関で細胞の製造、保管をし、研究者やベンチャーを支える仕組み作りをした(大学由来の種を実用化するために必要な仕組み)、③公益財団を作ったこと、④研究者としてもすごい!
☆ 寄付のお願い:寄付はすべて【公益目的事業】に使う。即ち、①細胞製造、品質評価、細胞保管管理及び細胞調製施設の管理。運営 ②他機関の研究開発および臨床応用に対する総合的支援 ③知的財産・契約および広報等に係る業務の支援 など
☆ 寄付のプロセス
※ iPS財団 寄付で検索
毎月か今回のみか選択し、個人情報、クレジットカード番号などを入力する。
※ または、資料、振込用紙を取り寄せる(フリーダイアル 0120-80-8748)
※ 領収書が送られてくるので、確定申告時で寄付控除を受けられます。
(作成者 藤井)